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名前を覚えてもらえないおしゃれな奴
三寒四温の日々、春の足音はそこまで聞こえてきています。今日は熱々のコージーを淹れましょう。スパイスの香りと焙煎したたんぽぽとチコリーの根が甘く香って、ミネラルたっぷり、身体がシャキッとしますよ。ストレートにしますか?ミルクを入れ?ではアーモンドミルクを試してみませんか?なかなか合いますよ。お茶が入るまで、今日はチコリーのお話でもお付き合いください。
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チコリー(英語名chicory、学名Cichorium intybus )は中央ヨーロッパから西アジアを原産とするキク科キクニガナ属の多年生植物です。高さは1mを越すほどに育つものもあり、直立した花茎にはデイジーに似た青い花を次々に咲かせます。その澄んだ青紫色は青い瞳に例えられたり「聖母のブルー」とも呼ばれます。 チコリーの花は7月ごろから秋にかけて咲きます。決まった時間に咲き、次第に色が薄くなって約5時間後にはしぼんでしまいます。規則正しい一日花なので花時計としても栽培されてきました。
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チコリーにはいくつかの別名があります。「サッカリー」の由来はケルト前史の神話。太陽神は青い瞳のサッカリー(Succory)という美しい女性に恋をし、求婚します。しかしサッカリーは「神と人間では身分が…」と断ります。フラれて激怒した太陽神は彼女をずっと自分だけを見つめる花に変えてしまいました。ルーマニアにもそっくりなお話がフロルリールという名の女性で伝わっています。西欧の神話に登場する神々は、どうも我儘で横暴な神が多いようです…
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もう1つの別名「ウェグワート(道端で待ちわびる人)」の由来はドイツの伝説。戦地に行ってしまった恋人の帰りを毎日街道沿いで待ち続けたていた娘は、戦死の知らせを受けるとその場で泣き崩れ「チコリー」に姿を変えた。娘の目と同じ美しい青色の花が同じ茎でもあっちを向いたりこっちを向いたりして咲くのは、今でも恋人を探し続けているから。だそうな。
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フラワーレメディーでは「献身的な愛情を与える」エッセンスとして使われています。また花言葉は「待ちぼうけ」「乙女の涙」「切ない気持ち」など。これらは恋人を待つ健気な少女の伝説を思わせますが、もう一つ「私だけの為に生きて」というのもあります。逆ギレした太陽神の呪いのようで怖いですね。もしチコリーの花をプレゼントされたら…気をつけてください。
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属名のCichoriumはギリシャ語で『畑』を意味するKichorionが由来で、古代エジプト、ギリシャ、ローマの時代から健康野菜として栽培されていました。葉や花は生または茹でて食べられ、焙煎した根っこはお湯を注いで飲んでいたそうな。ギリシャ人医学者、ガレノス(129ー200年頃)が「チコリーは肝臓の友達」と呼んだように、その薬効も知られていました。 特に最近、この根の健康効果に注目が集まっています。が、根っこのお話は次回までちょっとお待ちください。というのも、ヨーロッパでは古くから馴染み深いこの野菜、日本で正しく覚えてもらうまで難儀した、というかまだまだややこしいままなのです。まずはこの野菜の形と名前を知っていただきたいのです。
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今人気の洗わずに食べられるベビーリーフの袋にもチコリーの葉が入っていますし、美しい青い花もお料理を華やかに彩るエディブルフラワーとして人気です。しかし、チコリーの最も特徴的な部分は、白菜に似た10センチほどの若芽です。この小人の白菜を剥がしていくと、ボート型のしっかりした葉が十枚ほど重なっています。もともと苦味の強い野菜でしたが、18世紀末ごろ、ベルギーで日に当てないように白く柔らかく栽培するようになった事で、生でも美味しく食べられるようになりました。サラダボールの縁に飾られたり、様々な食材を載せやすいので洒落た前菜に使われています。また、スープやグラタンに入れたり、オーブンやフライパンで焼いたり、天ぷらにしたり、熱を加えると甘みが出てまた違った食感と味を楽しめます。
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この小人の白菜をイギリスではチコリー、フランスではアンディーブと呼び、日本では菊苦菜(キクニガナ)という和名がつけられています
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問題なのは同じキク科の一年草エンダイブ(Cichorium endive)という近似種の野菜があることです。こちらはリーフレタス(キク科アキノノゲシ属)や水菜(アブラナ科アブラナ属)に似たヒラヒラの葉野菜で、日本名は菊萵苣(キクチシャ)です。
このヒラヒラをイギリスではエンダイブ、フランスではチ(シ)コレと呼びます。
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ここから海外の混乱が発生。アメリカでは東海岸と西海岸とでは英と仏の文化の影響が異なり、小人の白菜型とヒラヒラの名前が混同されました。日本にも江戸末期から文明開花とともに様々な品物、植物や食品、様々な外国語が一気に雪崩れ込んできました。こうして物の名前、人名、地名など、現地語読みか英語読みかでごちゃ混ぜになり、これは今も続いているのです。こうしてチコリーとエンダイブは混同されてしまいました。
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令和の現在、野菜売り場では英語読みに則って小人の白菜をチコリー、ヒラヒラをエンダイブ、と表示しているところは多いのですが、フレンチレストランはもちろん、しゃれた輸入食材店ではフランス風に小人の白菜をアンディーブ、ヒラヒラをチ(シ)コレという名前で売っています。イタリアンレストランのメニューでは小人の白菜をチコリーア、この変種はラディチオ、ヒラヒラはインディヴィア…あ、やめておきましょう。とにかく様々な近似種や変種も多く、どうにもややこしいのです。
この混乱は「美味しんぼ」64巻の第二話(雁屋哲著1997コミックス 小学館)にも登場します。口論になるカップルのお話、是非ご一読してみてください。
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チコリーの栽培はベルギー、オランダ、フランス、ドイツなどが盛んでしたが、現在日本にはアメリカ産やメキシコ産などが多く輸入され、一年中出回っています。さらに日本でも岐阜や埼玉、北海道でも栽培されるようになりました。国産のチコリーは12月から3月までが旬です。どこかで「小人の白菜」を見かけたらこれがあのチコリーね、と認識してやってください。