冬将軍が活躍中のこの時期、ついついこってりした食事が多くなったり運動不足になったりして、胃がもたれ気味ではありませんか? しかも受験生のいらっしゃるご家庭ではストレスが胃にくる時期かもしれませんね。今日は神経の緊張を解き、胃痛を和らげ胃粘膜を護る働きがあるハーブのブレンドTingleを差し上げましょう。お茶を待つ間Tingleに入っているリコリスのお話でもいたしましょう。
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リコリス(Glycoriza glabra)は南アジア原産といわれ、地中海沿岸や中央アジア、北アフリカなどに広く自生するマメ科の多年草です。葉は萩に似ており淡い小さな紫色の花を咲かせます。
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リコリスの綴りはliquoriceまたは licoriceで、どちらもまちがいではありません。学名はGlycoriza glabra、日本では「スペイン甘草」と呼ばれます。漢方薬など東アジア圏で利用される“甘草” は学名がGlycoriza uralensis、日本名「ウラル甘草」の近似種です。日本薬局方ではこの両種を一括りにして「甘草」と認めていますが、今回はリコリス(スペイン甘草)のほうにスポットを当てます。
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リコリスは根とストロンと呼ばれる根と平行に伸びる茎の部分に甘い有効成分グリチルリチンを多く含みます。
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薬としての歴史は古く、古代エジプトのツタンカーメンをはじめ多くのファラオの墓から、金銀財宝と共に大量のリコリスの根の束が発見されています。当時は根を絞った汁を「喉の渇きを癒す薬」としていたようですが、砂糖の約100倍とも言われるリコリスの汁、甘いものが貴重だった時代、薬といいつつリコリスを口にできるのは高貴な方たちだけの特権だったのでしょう。おまけに強精作用があると信じられていた故の人気、という説もありますが...個人的にはこの説、実は甘党のファラオが子孫繁栄を大義名分にしていたのでないでしょうか。狂言『附子』の主人よろしく、壺に入ったリコリスの汁を独り占めしようとするファラオの姿、想像してしまいました。
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一方、古代バビロニアでも紀元前2世紀に制定されたハンムラビ法典に、「リコリスの根は喉を癒す薬」として挙げられています。因みに、この法典には薬の種類だけでなく、医師・手術師・獣医などの明確な類別、治療費は身分、貧富に準ず、と支払の方法も法で定めてありました。紀元前から医療制度が法で支えられていたとは!21世紀の先進諸国でも難しい課題...バビロニアの文明の高さに驚かされます。
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リコリスの学名Glycyrrhizaとは、「甘い根」を意味するギリシャ語に由来。古代ギリシャのヒポクラテスやディオスコリデスの著書には喘息など呼吸器の病気に用いたことが記録されています。古代ローマ時代には消化器の治療薬として高く評価され、その後は利尿剤、降圧剤としても効果も着目されるようになっていきました.
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アーユルベーダ(インド古代医)ではヤシュティマドゥ(サンスクリット語)と呼ばれますが、「ヤシュタィ」が棒、「マドゥ」がハチミツの意味で、ハチミツの根、つまり甘い根ということですね。根の成分をゴマ油に浸透させたマッサージオイルは保湿作用が高いため美容に最適、傷や赤ちゃんのオムツかぶれ、口内炎の治りを早めます。呼吸器疾患には鼻の穴にオイルを2滴ずつ垂らしたり、婦人科疾患には膣湿布という方法があるそうです。
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時代は下り『ナポレオン』の肖像画の多くは、右手をチョッキに差し込んでいるものが多いが、それはナポレオンが胃痛に悩まされていたからだ。 ナポレオンは神経質でストレス過多体質だった為に、しばしば胃潰瘍を起こしていたのだ。ナポレオン・ボナパルトは右手を上着に入れてポーズをとる肖像画が多くて有名です。諸説ありますが慢性的に胃痛に悩まされいて右手でお腹をさする癖があったから、という説があります。たしかに家系的に胃が弱く神経質でストレス過多だったナポレオンには胃下垂の病歴もありました。
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この胃痛に悩むナポレオンがリコリスの根を常習的に噛んでいたというエピソードが残っています。リコリスの根を噛むたび滲み出す甘い液体は、ナポレオンのささくれた気持ちを癒し、胃の腑を和らげたことでしょう。
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ナポレオンが築いたフランス帝国も、彼が体調悪化で静養中に敵軍に攻め込まれ崩壊、その後本人は幽閉先のセントヘレナ島で死去(享年51歳)します。その死因は胃癌による病死か?毒殺か?
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解剖記録を分析した結果、胃にできた腫瘍の場所や形状から、ピロリ菌が原因となった胃癌による病死、という可能性は高いようです。戦場では塩漬けの保存食が多かったのも良くなかったのでしょう。
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敵も多かったナポレオン、刺客による毒殺説も外せません。死後100年を経て公表されたナポレオンの看護師の日記によって、どうもワインに仕込まれたヒ素で、じわじわと中毒死させられたという説も信憑性があります。
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また中毒死を疑うなら、犯人いない説もあり得ます。19世紀当時のヨーロッパでは痛み止めから塗料、ワイン樽の洗浄液にヒ素が使われていましたし、水道管や食器に鉛が含まれ、様々な薬剤に水銀が使われていたという時代です。様々な重金属が体に蓄積して死んだ可能性もありそうです。
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こうして現在もナポレオンの死因は闇の中。それでも英雄にはドラマチックな「毒による暗殺」が一番似合うのですが…
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19世紀の一連のナポレオン戦争によって200万以上の命が失なわれ、その後のフランスの生産人口の激減や国力低下を招いた事は明白です。それでもナポレオンはフランスの英雄、フランス人にとっては国の誇りであり国の宝として尊敬されています。
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その証拠に、フランス人が21世紀の現在もナポレオンを敬愛する心がわかる嘘のような本当の話。それは、豚にナポレオンという名前をつけたり呼んだりしてはならぬという法律があるそうです。もしこの法を犯せば「不敬罪」に当り即、有罪!! ちなみに、1996年にアメリカでマンチカンとペルシャを交配してナポレオンという種類の猫が誕生したのですが、2015年5月1日より種名が「ミヌエット」に変更となりました。理由はやはりフランスからクレームが入ったからだそうで...ナポレオン、猫でもダメですか…
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さらに時代は下り第2次大戦中のお話。リコリス・ガムの愛用者が多かったオランダでは、ドイツの占領によってリコリスの輸入が難しくなったことが原因で、胃潰瘍患者が急増したといわれています。胃潰瘍に対する薬効については1946年、オランダの研究チームの臨床報告以降、世界中で注目されました。ガムに混ぜても効果があるとは、侮れません。
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現在もリコリスやその成分グリチルリチンは気管を拡張する働きや歯茎を健康に保つ働きから、喘息の薬やのど飴、歯磨き粉に使われています。また自然由来の食品添加物としても使われていますが、欧米ではリコリスといえばリコリス菓子のことを指すほど一般的です。リコリスのお菓子、嗜好品にまつわるお話は次回いたしましょう。
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さてさて、「リコリス」という名前はギリシャ神話に登場する海の女神リュコリスにちなむとか。ここで気を付けなければいけない注意事項が1つ。
園芸種にもリコリスLycorisと呼ばれる種類がありますが、こちらはユリ科ヒガンバナ(マンジュシャゲ)の仲間を指します。全草に毒がありますのでリコリスの名前で混同しないようにご注意下さい。 |