満月の名前と馬簾ひらひら

さ、ガードが入りました。召し上がってください。北米先住民の万能薬エキナセアが世に知られるようになった道のり、続けましょう。お茶を飲みながらお付き合いください。

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18世紀、北米全体がすっかり欧州各国の植民地になるとますます大量の人間(移民だけでなく更なる労働者としてアフリカ人奴隷の輸入)と、作物と動物などなどが4つの大陸を盛んに往来します。当然、病原体も広範囲に移動して疫病は世界規模で流行しました。コレラ、天然痘、スペイン風邪などの感染爆発が繰り返されていた頃、北米の医療は混迷を極めていました。

まず移民がユーラシア大陸から持ち混んできたのは科学的な近代医療と、様々なタイプの伝統医療。そこに新大陸で新たに北米原産の薬草だけを使うトムソン式植物療法が生まれ、どさくさに紛れて胡散臭いニセ医者もたくさん参入します。徐々に淘汰されながら最も人気を集めたのが近代医療と自然療法を統合した医療を目指す折衷派(エクレクティック)でした。その折中派の一人メイヤー医師が最初にエキナセアに注目た人物です。彼はネブラスカ州の(先述のマーロンブランドの出身地と同じ)パウニーという小さな町のドイツ人医師でした。1870年代、世間の白人が先住民を野蛮で下等な人種と蔑むなか、同じ医療を志す者として先住民の知識を高く評価し、敬意を持って彼らに指南を請うたのです。

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ここでちょっと北米先住民が月毎の満月に付けていた呼び名を紹介します。環境や生活習慣は異なりますが、自然と調和し季節を捉えてきた彼らに同じモンゴロイドの血を感じます。(部族によって呼び方が異なるものもあります)

     1月: Wolf Moon(お腹を空かせた狼が遠吠えする候の月)
     2月: Snow Moon(雪が降り積もって狩猟が難しい候の月)
     3月: Worm Moon(みみずが土から顔を出す候の月)
     4月: Pink Moon(ピンクの花が咲く候の月)
     5月: Flower Moon(花が満開になる候の月)
     6月: Strawberry Moon(イチゴが実る候の月)
     7月: Buck Moon(雄ジカの角がどんどん立派に伸びる候の月)
     8月: Sturgeon Moon(チョウザメの漁をする候の月)
     9月: Corn Moon(とうもろこしを収穫する候の月)
     10月: Hunter’s Moon(狩りをする候の月)
     11月: Beaver Moon(毛皮にするビーバーを捕る候の月)
     12月: Cold Moon(寒さが厳しくなり始める候の月)

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 さて先住民にとってエキナセアは、おでき、腹痛、かぜ、そして大自然の中では命取りになる毒蛇や毒蜘蛛の咬傷に効くという万能薬で、根の搾汁を塗ったり根を噛んだり煎じて飲んでいました。メイヤー医師は自ら毒蛇に足を噛ませてエキナセアを塗り、解毒=浄血作用に確信を得ると「メイヤーの浄血剤」として売り出します。途端に折衷派の医師達が使い始め、白人社会に知れ渡りました。

時を置かずエキナセアは大西洋を渡るとドイツで栽培が始まり、ミュンヘン大学が中心となって研究、臨床試験が進められました。抗ウイルス作用や免疫機能に対する作用の有効性や安全性が確認されるとドイツや英国で認められ広まりました。アメリカでサプリメントが興隆するまでの一時期、抗生物質の登場でエキナセア人気が翳ったのに対し、欧州では根強く人気を保ってきました。

検出されている複数の薬効成分(多糖類、アルキルアミド、フラボノイド、カフェ酸誘導体など)が多様な組み合わせによって抗菌・抗ウイルス・抗バクテリア作用、抗炎症作用を発揮し、マクロファージを刺激しリンパ球の働きや、IL-1とIL-6の産生、T細胞の増殖を促したり、と免疫機能に作用と安全性が確認されていています。しかし作用のメカニズムはまだ全容解明に至っていません。風邪、インフルエンザ、上気道感染症、尿路感染症、ヘルペス、むくみ、鼻粘膜の乾燥、カンジダ症などの感染症に有効と使われています。          キク科アレルギーのある方は十分な注意が必要です。            またドイツのコミッションE(薬用植物評価委員会)では、結核、白血病、多発性硬化症、膠原病、HIVのような進行性疾患のある方の服用は禁忌としています。

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エキナセアが初めて日本に輸入されたのは昭和初期、和名は紫馬簾菊(ムラサキバレンギク)。花が下に向かって広がる様子が馬簾(バレン:火消しが振るまといに下がる革製の短冊状飾り)に似ている所から命名されました。奈良県の「平和園」という種苗店から鑑賞用として発売されたそうですが、当時の日本人の美意識では下向きに広がる花が好まれなかったとかで人気が出ず。それどころか、花を毟った後の花床部だけ(ネギボウズ状態)を活花やドライフラワーに使用していたと!なんとも冷たい扱いのままひっそり下積み生活を送ってきました。

ところが21世紀になると日本人の好みも変わってきたのか、メタリックな質感と存在感のある大きな花が好まれ、ガーデニングでも切り花でも(花を毟らないオリジナル姿)でも人気があります。紫だけでなく黄色、ピンク、白などなど色も豊富に出回り、花季も長くて寒さにも強く丈夫で鉢植えもOK、人気にならない理由がないです。

同時に欧米でのエキナセア人気が注目されるようになり、日本でも薬草として栽培を始めた地域があります。かつて養蚕が盛んだった埼玉県寄居町は桑を無農薬栽培をしていましたが、絹織物業の衰微に伴って桑畑をエキナセアに転用しました。毎年7月にはエキナセア祭りが開催されるなど町興しに一役買っています。また鳥取県大山町でも耕作放棄地対策と景観保全を目的にハーブの栽培が検討されていた当時、豚インフルエンザが流行したことからエキナセアが着目され、栽培が始まったそうです。

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この季節はホームセンターやご近所の庭先にもエキナセアの花が咲いていると思いますが、夏のディズニーシーの花壇は多くのエキナセアで彩られていますのでチャンスがあったらぜひ探してみてください。賑やかなディズニーシーでエキナセアを見つけたら、ちょっと北米先住民に想いを馳せてみてください。