今日は貴重な梅雨の晴れ間、お洗濯日和と思いきや午後は雷になるとか。気圧の変化に体が追いつきませんね。今モーニングを入れましょう。このお茶は朝の1杯なら浄化に、日々ティーブレイクの1杯でバランス調整に一役かいます。お茶を待つ間、ホーチュラスでは扱いませんが生薬の1つともされているアジサイにまつわるお話をいたしましょう。まず今日は子供でも知っているアジサイですが、花の構造や種類が名前がややこしいこと、アジサイの歴史などからはじめましょうか。
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まずご注意から。アジサイの花は生薬「紫陽花(しようか)」として解熱などに使用されますが、毒性のある物質を含むので素人の使用は危険です。アジサイの変種である甘茶(Hydrangea macrophylla var. thunbergii)は生薬としても使われていますし、仏教の花まつりに欠かせないお茶です。他の種類のアジサイと間違えたり、濃く煮出しすぎるとやはり中毒のリスクがありますので、特に小さい人が飲むときは注意が必要です。またアジサイという名のついた中国原産ジョウザンアジサイ(Dichroa febrifuga ) は種属は異なりますが、やばり漢方薬として根を「常山」若枝は「蜀漆」の名で使われています。こちらもやはり毒性物質を含む為、専門家以外の使用は危険です。アジサイはごく身近に在る植物ですが、触ったら必ず手を洗う!間違っても料理に添えない!小さい人が口にしないよう要注意!これはよく覚えておいてください。
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アジサイは日本原産のアジサイ科アジサイ属の落葉低木です。初夏に咲く白や青、紫、ピンク色の花は世界中で庭木、鉢花、公園、アレンジメントの花材として見られます。姿形が異なる多くの種類がありますが、全てたった一つの原種、額(ガク)アジサイ(Hydrangea macrophylla f. normalis )から生まれています。ガクアジサイは花房の縁取りにだけ花(装飾花)をつけます。花弁に見える部分が萼(ガク)で、萼の中芯にある豆粒のような蕾から咲くのが花です。この装飾花には雌蕊がなく装飾花に囲まれた「こんもりツブツブの小花」集団のひとつひとつが真花です。真花は雄蕊と雌蕊が揃った両性花で、花後に水壺の形をした小さな実(蒴果)を結び種が採れます。周囲の装飾花もただのお飾りではなく、早めに開花することで虫を誘い両性花の受粉を促す役目があります。属名Hydrangeaは実の形からラテン語で「水+壺」、種小名のmacrophyllaは「大きな葉」、最後尾のf(品種名)normalisは「正規の」を意味します。後述いたしますが、分家が先に登録を済ませていた所為で本家のこちらが分家の名前の最後に品種名を付け足す羽目になりました。
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清楚な印象のガクアジサイ対し、装飾花だけで花房を埋め尽くすアジサイをホンアジサイ(Hydrangea macrophylla f. macrophylla)と呼びます。原種の栽培種とも言われますが、本来丈夫で野生化や変異、自然交雑を重ねていることから自然発生の可能性も否定できません。装飾花しかない手毬咲きのこちらもDNA的にはガクアジサイと同属同種、花に雌蕊がありません。ただし!数多ある派手なガクを持つ装飾花をよーく見ると、雌蕊雄蕊が揃った両性花が混じっているのです!さらに、密集した装飾花を書き分けると、手毬の中に埋もれて小さな両性花が咲いています!見つけると幸運が🍀、的な話はありませんが、ホンアジサイを見たら是非コソコソっとかき分けて両性花を探してみてください。学名は原種より先にこちらが登録してた為、原種はに一品種名がつけられ登録されました。すると先に登録したこちらには自動的に(命名法の規定に則って)種小名macrophyllaをもう一度繰り返してつけられました。まるで念を押すかのように偉そうに!って、分家が「元祖」とか「総本家」を名乗って本家面するとは、まるで老舗騒動のようですね。
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さて、かなり古い時代(不明)に日本から中国へと渡っていたアジサイは、17世紀頃からグローバルな活躍をみせていた「プラントハンター」なる仕事人達によって欧米に持ち込まれると、目を引く豪華な花房、魅力的なバリエーションの多さから瞬く間に人気が出ました。ヨーロッパの各国から放たれこの業界人たちの話は、例の出島の悲恋の真相も絡めて次回また。
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アジサイは英語でHydrangeaハイドランジアと言います。北米東部には早くからガクアジサイが伝わっていたようで、先住民は自生する帰化種「アメリカノリノキ」の根を利尿薬として使っていました。1739年、この標本を入手したオランダの植物学者ヤン・フレドリック・グロノビウスが、この木にハイドランジアと名を付けました。しかし「植物分類学の祖」であるカールフォンリンネが「属名+種小名」という二部式学名による正式な分類法を確立したので、1753年にリンネ本人がHydrangea arborescenns Linneと自分の名前をくっつけて正式登録します。最近人気の種類「アナベル」はアメリカノリノキから作られた園芸種です。白くて大きな花が見事で、この仲間は土壌によって色が変わることはなく、白から緑に変わるくらいです。
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一方、欧州の非英語圏ではアジサイのことをオ(ホ)ルタンスとかオルテンシアと言います。この呼称はフランスのフィルベール コメルソンというプラントハンターが、モーリシャス島(アフリカ)で見つけた手毬咲きのホンアジサイに、Hortanse「オルタンス」という当時比較的多く見られた女性の名をつけたのが発端。彼は1771年(頃)オルタンスの形容詞形オルテンシア、という属名をつけてパリに標本を送り登録を試みますが、手毬咲きするホンアジサイもリンネが登録していたガクアジサイと同属同種と判明した為、あえなく不採用。その代わり西欧に渡って品種改良された全てのアジサイをセイヨウアジサイと呼びその学名(Hydrangea macrophylla f.hortensia)の最後尾で品種名になりました。そして多くの国でアジサイの総称として定着しました。この「Hortansia」の語源には二説あり、一つはコメルソン意中の女性の名が由来。しかしその後の検証でその女性が誰かは特定できず未だ謎。もう一つは、この花がフランス行政長官の庭園で栽培されていたことから、古典ラテン語で「庭園」を意味するhortensiusが由来。我がHortulusと同じ語源ということで、こちらを推しておきます。
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さて、ここからは古来より身近にあったアジサイが、原産国の日本でどのように生きてきたのか辿ってみます。
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奈良時代末期に編まれた日本最古の歌集「万葉集」には日本古来の草花が多く詠まれていますが、アジサイはたったの二首だけです。藍色の花が集まって咲く、という意味で集「あづ」+真藍「さあヰ」訛って「あぢさゐ」と呼ばれた説が有力です。当時の万葉仮名は、漢字の持つ意味とは無関係に音だけで字が当てられていて「味狭藍」「安治佐為」などが見られます。
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現在の漢字表記は唐の白居易(白楽天)によって香の良い紫の花を詠った「紫陽花」という漢詩が由来で、平安時代の源順(みなもとのしたごう)なる学者がこの花はアジサイだと思い込み、「倭名類聚抄 わみょうるいじょうしょう(935年)」という漢和辞典に「紫陽花」=「阿豆佐為」と載せてしまったとか。しかしこの「源順さん勘違い犯説」には冤罪疑惑もあり、未解決です。残念ながらアジサイに芳香はなく、白居易が詠った紫陽花はライラックを指すと考えられていますし、中国ではガクアジサイの装飾花8つが並ぶ様子を 道教の八仙(代表的な8人の神様)に擬えて「八仙花」呼んでいたそうな。
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平安〜鎌倉時代には、四枚の花弁(にみえる萼)から「四葩(よひら)の花」と呼ばれます。この時代にも詠まれた歌は五つの歌集に一首ずつ確認できる程度で、人気の梅、桜、萩、橘、菊、藤などとは桁違いです。また花の色が変化することから「七変化」とも呼ばれていました。四という数が縁担ぎで嫌われたのか、色の移ろい易さから不実や心変わりを連想させた所為か、貴族にも武士にもあまり好まれる花ではなかったようです。
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ちなみに青や紫、ピンク系のアジサイが含む色素はアントシアニンで、これが土壌のアルミニウムと結合して発色します。 アルミニウムが多く溶ける酸性土壌では青系に、中性~弱アルカリ性の土壌ではピンク花になります。リトマス試験紙と逆ですね。ちなみに白いアジサイは色素をもたないので土壌が変わっても白いままです。さらに、白でも有色でも開花から咲き進むにつれ色が変化するのは、いわゆる老化現象です。
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さて中世と呼ばれる時代、大人気だった物語や日記の類には全く登場しません。絵画でも室町時代(16世紀頃)狩野元信「四季花木図屏風 しきかぼくずびょうぶ 出光美術館蔵」の右隻の左端に夏の花として地味に登場で一枚、安土桃山時代に狩野永徳作(と伝わる)「松紫陽花図 重要文化財 京都南禅寺所蔵」で一枚、なかなか芸術の対象にもなリませんでした。
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江戸中期には金満主義の俳壇とは一線を画し、真の美を自然の中に探求したと言われる松尾芭蕉がアジサイを好んで詠みました。琳派の絵師たちに多く描かれるようになり、特に俳人でもあった酒井抱一の「紫陽花の着物の少女」では愛らしい着物の柄にアジサイが描かれている、この辺でアジサイの扱いが一気に変わった気がします。さらに18世紀に入ると葛飾北斎、歌川広重、伊藤若冲ら大御所達がこぞって作品に残しており、幕末から明治の絵画や文芸作品にも登場するようになりました。
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大正期に輸入、そう逆輸入された洋花としてのセイヨウアジサイは、当時建てられた数々のハイカラな洋館の庭にもとてもよく似合い、明るく華やかな印象を与えています。そしてついに戦後の日本でアジサイはブレイクの時を迎えます。
あ、お茶が入りました。つづきはお茶を飲みながらにいたしましょう。